【旅コラム】静かな夏に戦争を思う〜千鳥ヶ淵戦没者墓苑〜

千鳥ヶ淵戦没者墓苑とは

今年も、8月15日がやってきた。

この日は、日本人にとっては『終戦の日』であり、過去の痛ましい戦争の犠牲者に哀悼の意をささげる大切な日である。わたしは毎年、お盆の季節は帰省するため、少し日をずらして靖國神社に参拝する。今年は、靖國神社と千鳥ヶ淵戦没者墓苑にも参拝してきたのでブログにまとめたいと思う。（靖國神社参拝の記事はこちら）

千鳥ヶ淵戦没者墓苑へは、九段下駅から徒歩10分程度、靖國神社から徒歩7分のところにある。なので、九段下駅から靖國神社で参拝したのちに、千鳥ヶ淵戦没者墓苑に立ち寄るというルートが良い。

隣には皇居が見え、辺りはすこぶる静か。都会の真ん中なのに静寂を打ち消すかのように蝉の鳴き声だけがこだまする。

人通りも少なく、ひっそりとした緑深き空間に、本当に墓苑があるのかと思うくらいだ。

こちらで手を清めて中へと入る。

千鳥ヶ淵戦没者墓苑は、先の大戦において海外でお亡くなりになった戦没者のご遺骨をおさめるために作られた国営の墓苑。昭和34年に建設されたものである。

こちらに納められているご遺骨は、戦後、政府派遣団が海外にて収集したものや、帰還した部隊や個人により持ち帰られたものであり、軍人だけではなく一般の邦人も含まれている。

すべて、ご遺族に引き渡す事のできないものであり『無名戦没者の墓』とも言われているのもうなずける。

皆も知るように、先の大戦は日本の敗戦により終結したため、戦没者のご遺骨の多くが海外の戦場に残されたままとなった。そんな中、ご遺族の方々の要望によりご遺骨を日本本土に迎えるため、政府は遺骨収容を開始した。

政府による計画的な遺骨収容が実施された後に、昭和51年以降は遺骨帰還団を派遣し、今もなお遺骨収容が実施されている。

六角堂と御製の碑

千鳥ヶ淵戦没者墓苑の門を抜けると、正面には六角堂が見える。
ご遺骨は、この六角堂の中央におかれた陶棺の下にある地下室納骨室（および、平成3年に増設された地下納骨室）に安置されている。

この陶棺の形は、日本古代の豪族の棺に模したものだそうで、戦場から収集した小石を材料としているのだそうだ。そして、この陶棺には戦没者を代表するご遺骨が納められている。

参拝の折りには、誰でも献花できるようになっている。100円を入れて献花することができる。

千鳥ヶ淵戦没者墓苑の敷地は約5,000坪。常緑樹と落葉樹が入り混じって植えられているため、夏にはすべての緑が青々と生い茂り、灼熱の太陽をも打ち返すような力強さを感じてしまう。

六角堂へと続く参道の両脇には、2つの碑（御製の碑）が向かうあうように設置されている。

右側の御製の碑は昭和天皇陛下から下賜された御製を、秩父宮妃殿下が謹書され昭和35年に竣工したもの。左側の御製の碑は、終戦60周年に上皇陛下の御製を、常陸宮妃殿下が謹書され、平成17年に竣工したものである。

くにのため　いのちささげし　ひとびとの　ことをおもへば　むねせまりくる

御製の碑（右）

いくさなきよを　あゆみきて　おもひいづ　かのかたきひを　いきしひとびと

御製の碑（左）

戦没者は310万人

参拝を終えたあとには入り口にあった休憩所で展示物を拝見。休憩所には『戦没者遺骨収容概見図（平成31年3月現在）が掲示してある。

海外戦没者数は、2,400,000人（240万人）。そのうち収容されたご遺骨が1,276,000人、未収容のご遺骨が1,124,000人である。この図には、様々な戦場におけるご遺骨の収容状態が数字でみられるようになっている。（別紙「地域別戦没者遺骨収容概見図」）

そして、この千鳥ヶ淵戦没者墓苑には、令和元年の今年5月の拝礼式の時に、新たに925柱のご遺骨が奉安され、現在で370,069のご遺骨が安置されている。（千鳥ヶ淵戦没者墓苑納骨一覧表（年度・地域別） 令和元年5月27日現在）

具体的な戦没者の数字を見れば見るほど、悲しい現実を突きつけられたようで、胸が苦しくなるようだ。

海外での戦没者は約240万人。それに、日本本土における戦没者約70万人をあわせると、先の大戦の戦没者総数は約310万人。この数字は、誰もがいつも心に刻んでおくべき数字である。

戦争で亡くなった方々を思い、靖國神社を参拝する人は多い。ぜひ、近くにある『無名戦没者の墓』も参拝していただき、戦争で犠牲になられた方への鎮魂の祈りを捧げていただきたい。

これからも折に触れて参拝したいと思う、静かな夏の日だった。

先の大戦における海外主要戦域別戦没者数

総数：2,400,000人

（公財）千鳥ケ淵戦没者墓苑奉仕会

環境省　千鳥ケ淵戦没者墓苑管理事務所