※「ビフォア・サンライズ」と「ビフォア・サンセット」の映画レビューです。配慮して書いてはおりますが、一部ネタバレの部分がございますのでご注意下さい。
本当に、ノーマークでした。
昔から、イーサン・ホークは大好きな俳優さんで、いくつも映画は観てみましたが、このラブストーリー2作品は完全にノーマーク。
一度も観たことのない作品でした。
現在、最新作の「ビフォア・ミッドナイト」が公開されていますが、本作が前作2作品の最終章だということを知り、“しまった!観てなかった!”というわけで、急いで、前作となる「ビフォア・サンライズ」と「ビフォア・サンセット」を観てみました。
いつもはBS・CSの複数の映画チャンネルを録画して映画を観ることが多いのですが、さすがに、この2作は放送の予定がありません。しかたなく、レンタルショップに行き借りようとしましたが、全部レンタル中で手に入りませんでした。
そうなると余計観たくなるのが人間の心理。
もう、「DVD買っちゃおう」と思った矢先に、ようやく借りることができた作品でした。(笑)
「ビフォア・サンライズ」は1995年の作品(102分)
旅先で、たまたま乗り合わせた23歳の大学生の二人の出会い編。
イーサン・ホークが演じるジェシー(アメリカ人)が、ジュリー・デルピーが演じるフランス人の女の子セリーヌに声をかけるシーンから始まります。その後、意気投合した二人は、それぞれの旅のスケジュールを変更して、ウィーンで途中下車し、次の日の飛行機の時間までの14時間を一緒に過ごす、というストーリー。正直、この2行で、映画のストーリーは全て要約されたと言っても言い過ぎではないほどシンプルです。
ちょっとだけ補足すれば、ホテルに泊まるお金が無い若者は、14時間を歩き続け外で過ごすというストーリーです。(笑)
なんでしょう。
このストーリーだけで「この映画が観たい!」と感じる人は、そんなに多くないでしょうね。あまりにもストーリーとして抑揚がありません。
しかし、しかし。
この14時間が、観ている人を映画の世界にぐいぐい引き込んでいくのです。それだけ、映画全体が素晴らしいラブストーリーになっています。
まず、二人の会話が秀逸です。23歳という若さなのに、二人の知的な会話センスが最高です。かといって、百戦錬磨の恋愛を繰り返してきたような大人びた会話ではありません。等身大で初々しくありながらも、浮ついていなくてカッコイイのです。その会話の内容から、二人が知り合った列車の中の少しの会話で、すでに惹かれ合ったことが分かります。
普通、男女が出会い、お互いがお互いの事をよく知るまでには時間がかかります。知るために会話を重ねますし、知るために同じ時間を過ごします。最初は、お互いが緊張し、相手によく見られたいという下心から飾ったりもするでしょう。なかなか、素の自分を出すのに勇気が入ります。
でも、この二人。
最初から、等身大の自分で相手にぶつかっているような気がします。普通は時間がかかるお互いの理解を、会話をし続けることで、14時間で達成しようとしているようにも見えるのです。
さらに、23歳という多感なお年ごろ故の、ドキドキ感も満載です。もちろん、最初からある下心。これが全くいやらしくなく、ある意味自然で爽快で、自然とニヤニヤしてしまいます。出会ったばかりの男女ですが、この二人の(心の)距離感の表現は、二人の立ち位置で表現されています。そして、それが絶妙で完全に感情移入できるのです。
そしてラストシーン。
映画のあらすじには「二人が出会って別れるまでの14時間」と書かれていますが、ラストシーンはあえてブログに書くのはやめたいと思います。ある意味、このラストシーンなくして、この映画の素晴らしさは語れないからです。そのため、これから映画を観る人には致命傷になるので書くのはやめたいと思います。ただひとつ、どうしてこのラストシーンだったのかは、その後9年後に作られた「ビフォア・サンセット」につながっています。ラストシーンの意味と理由が、次作の「ビフォア・サンセット」で明らかになるというわけです。
そして、9年後の二人の再会を描いた「ビフォア・サンセット」(2004年・81分)。
これも秀逸です。というか、出会い編の「ビフォア・サンライズ」よりも「ビフォア・サンセット」の方が好みです。(個人的には)
まず、9年後、32歳になった二人の物語で、これまた、ジェシーが飛行機に乗るまでの80分間を描いた作品です。本編も80分なので、実際の80分と完全にリンクした作品です。もちろん、本編通して、二人の会話シーンのみ。前作のウィーンから、舞台はセリーヌの住むパリになっています。
まず、最初の二人の再会シーンがクールです。静かに、そして熱く始まっていきます。ちょっとくたびれたジェシー(イーサン・ホーク)と、ちょっぴりスリムになったセリーヌ(ジュリー・デルピー)。二人の9年間はどんな9年間だったのかが、最初から気になって気になってしかたありません。先が待ちきれない気持ちで、再び、二人の会話に陶酔させられるのです。
相変わらず、二人の会話は知的でちょっとセクシーです。(笑)二人の9年間をひもどく会話もあったり、環境保護の話とか、仏教の話とか。80分しか二人の時間が無いんだから、他の話は無いの?と思ってしまいがち。でも、それが二人の、二人らしい会話なのです。当の本人たちも二人っきりの時間を過ごせば過ごすほど、“あぁ、この感じよね”と思ったに違いありませんが、観ているこっち側も同じように感じてしまいます。二人の世界に、また引きこまれてしまうのです。
この作品の中で、大好きなセリーヌのセリフがあります。
“細かい所に目がいっちゃうの。そして感動して忘れられなくなる。ひげに赤毛が混じってたこととか 、別れの朝 それが太陽の光で輝いてたこととか。そういうことが恋しかった。”
すごいセリフだなぁ、と思います。
この脚本やセリフは、実際に演じた俳優さんの、イーサン・ホークとジュリー・デルピーも参加して書いたそうです。こんなシーンではこんな会話、みたいに、二人も積極的に脚本に参加したとのこと。
なるほどな。と思いました。
このセリフは、絶対女性が書いたものだと感じました。女性が感じる心の細やかさが表現として出ていたからです。このセリフを言いながら、セーヌ川を船で遊覧する二人。船が橋をくぐるたびに、二人の上に日陰が落ちていきます。こんな演出も、本当に綺麗な演出だなと思いました。
そしてラストシーン。このラストシーンもブログでは書きません。なぜなら、前作同様、このラストシーンあってのこの作品だからです。ただひとつ言えることは、丁寧な説明はないですよ、という感じです。(笑)それまでの二人の距離、言葉、表情、しぐさ。これらから、今の二人を心で想像して感じる、というようなラストシーンになっています。そして、現在公開中の、「ビフォア・ミッドナイト」につながるというわけです。
ここまで、ブログにまとめてみましたが、いかがでしょうか?
観たくなりました?
ほとんど、抽象的な事しか書いてないので、「なんのことやら」という人も多いと思います。でも、本当にこのラブストーリー、いつまでもいつまでも心に染みてくるリアリティ溢れる作品だと思います。
男女の出会いは、無数に散らばっていて、それを実らせるかそうでないかは、一人ひとりの気持ちにかかっています。
しかし、どんな出会いであっても、どんな恋であっても、やはり、人と人は出会って深く知り合い、そして永遠につながっていく、ということをこの2作品で感じてしまいます。恋人同士もそうですが、結婚して夫婦になった時に、恋人時代以上に会話が必要になります。とことん話して、とことん知りあう。相手を知らずして関係は深まることはなく、自分を知ってもらわずして愛してもらうことはできないのです。
飾る必要もなく、等身大の自分を、大切な相手に知ってもらう。
そんな事を考えると、本当に心の底から愛おしくなる2作品です。