カンヌ映画祭には出なかったが、極めてカンヌっぽい作品
Netflixオリジナル映画というには、そのクオリティは飛び抜けて素晴らしい。劇場公開しなかったから、カンヌ映画祭にはノミネートされなかったというが、きっとカンヌに出ていたら最高賞を受賞したに違いない。
色々調べてみたら、劇場公開しなかった理由は、『俳優も無名で、全編とおしてスペイン語の映画なので興行的に苦戦するだろう。だからNetflixと組んだ』と監督が話しているらしい。
劇場公開すれば、大きなスクリーンで、さらに臨場感あふれる映画体験をできただろうが、良い作品を生み出すのに、その手法の選択肢が複数あるのだから、ある意味、この選択も『あり』なんだろうと思う。
映画は、全編通してモノクロでできている。
65mmフィルムで撮られているらしいが、このモノクロ映像の美しさは、本作『ROMA/ローマ』すべてを支えていると言っても過言ではない。モノクロ映像の中に表現される光と影。その時代、その国(メキシコ)を生きたわけでもないのに、その物語の中に溶け込んでいくような感覚を覚えてしまう。
一つひとつのカット(構図)も美しいのだが、引いたカメラで、主人公たちの動線をなぞるようなカメラワークも効いている。全く知らない赤の他人の家族をのぞき見しているような感覚ではじまり、いつしか、彼ら家族の中に入り込んでしまうような気持ちになってしまう。
激動のメキシコを生きる女性の話
舞台になっているのは、1970年代のメキシコ・ローマ地区。
中流階級の豪邸に住む大家族で働く家政婦が主人公だ。
広く大きな家の中で家政婦として働く若い女性。
彼女が置かれている立場や、安定しない政治情勢、女性というジェンダーの地位、今の日本に住む私達とは、だいぶ異なる生活を送っている。実に、理不尽な事が多すぎるし、腹立たしい出来事が起こっていくのだが、そのたびに、彼女が無性に愛おしく感じ、応援したくなる気持ちになる。
時代も国も違う彼女の人生をのぞき見しながら、そこで起こる矛盾や理不尽さに感情を揺さぶられてしまう。それでも、しなやかにたくましく生きていく『生』の美しさと躍動感も感じられる作品になっているのが素晴らしいと感じた。
ただ、全体的に、静かに抑揚なく進んでいく物語なので、こういう映画が苦手な人にはつまらなく感じてしまうかもしれない。実に、玄人好みの映画なので、やはり映画館での興行は苦戦したかもしれないですね。(笑)でも、映画ファンなら、改めて大スクリーンで見直したいと思う人も多くいるかもしれません。
激動の時代を通して、『女性』を描いた作品です。