哭声 コクソン(2016年:韓国)映画レビュー


ひたすら混乱。そして圧倒的な映画力

これほどまで、映画を見終わった後で、ネタバレ解説を欲する映画は無い。
混乱に混乱を重ねた後に、どうやっても組み合わないパズルにフラストレーションを感じるが、それでも言わんとしていることを『知りたい』欲求にかられた。

なので、映画の後は町山さんの解説を聞いて、映画に隠された伏線、メタファー、罠をなんとか理解できた。しかし、監督が描きたかった本筋をしっかり理解するためには、しばらくは混乱をし続ける映画だと思った。

町山智浩の映画ムダ話45 : https://tomomachi.stores.jp/items/58c7c19d02ac6424de000b78

 

とにかく、『映画としての力』がすごい。

156分という時間があっという間に過ぎていき、どのシーンをとっても品質が高い。パンフレットを見て知ったのだが、本作の撮影監督はホン・ギョンピョ。『ブラザーフッド』、『母なる証明』や『海にかかる霧』などで、大きな評価を得ている撮影監督だった。

どうりで。

最初から最後まで、韓国映画の独特な品質をもって語りかける。

上手い。



とにかく、冒頭から強烈なサスペンス調で観客を混乱に陥れる。
見ている側は、ひたすら謎解きしようと映画から投げられた『挑戦』に挑むが、まったく謎が解けない。

むしろ、混乱に混乱を重ねていくうちに、映画自体はどんどん悲惨な状況へと勝手に進んでいってしまう。通常なら、理解できない状況で取り残された観客はフラストレーションで気持ちが冷めていくはずなのだが、この映画はそうはさせない。

混乱させられながらも、必死に映画にしがみついてしまう、圧倒的な映画力があるからだ。

 

ナ・ホンジン監督の過去作は『チェイサー』と『哀しき獣』。数年毎に作り、長編3作目であるが、すべての品質が高い事に驚きを隠せない。

サスペンスとホラーの中間をいくような恐怖を、観る人に与えながらも、人間の奥深い部分を描こうとする。(ただ、全般的に怖くて、後半の1時間はずっとお腹が痛くなりました。これ以上の恐怖は無理。耐えられるギリギリのラインでした。笑)

あえて分かりにくくすることで、観客に考えさせ目覚めさせるような手法であるように思う。



 

ナ・ホンジン監督はクリスチャン。
『沈黙:サイレンス』を映画化したマーティン・スコセッシ監督といい、今こそ、人間と神の存在を遠回しに描く実力派監督が、傑作を世にだしているのは偶然なのだろうか?とも考えてしまう。

キャストは、クァク・ドウォンと國村隼、ファン・ジョンミン。いずれも役者だと言われなければ気づかないくらいに役柄に溶け込んでいて、画としてのまとまりが、すこぶる良かった。
本作の重要なキーになる警官の娘も、最大限の演技でフィクションには見えなくなってくる。

ナ・ホンジン監督のセンスが感じられる所は、そのディテールにあるのかもしれない。
小さくて細かな所に、小さくて細かな演出が施され、それが絶妙にリアリティを感じたりする。大きな本筋を骨太で描くために、小さなディテールも手を抜かない。

そういう品質の高さが、映画力を高めるんだと思う。

また、所々に、小さな笑いを散りばめている所もバランスがとれている。
凄惨な事件が起きているのに、実に日常的な滑稽なシーンが、物語の本質に肉付けしているのもセンスが感じられる。

小さな閉鎖的な村の中で、次々に起こる猟奇的殺人事件。
それを解決しようとする、なんの特徴もない普通の警官。
普通の人々が普通では無くなる時、そこに起きている何を信じるか?
そもそも、人の中にある『信じる者』とは何なのか?

 

哲学的でもあり、宗教的でもあり、人間学的でもある骨太作品。



『沈黙:サイレンス』といい、本作『コクソン』といい。
神と人間を描く上質な映画が、立て続けに世にでているということは、やはり、社会が行き詰まりを感じている証拠なのかもしれない、とも思う。

▼ナ・ホンジン監督 過去作(チェイサー)


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