学生時代に通ったケーキ屋
学生時代、よく通っていたケーキ屋さんがある。
横浜 伊勢佐木町のちょっと端っこにある老舗のケーキ屋さん「浜志まん」だ。創業は大正2年(1913年)。長い間、伊勢佐木町にある商店街『イセザキモール』にお店を構え、今もなお、その味と品質を保ちながら営業している。
横浜に来たばかりの頃、学生寮の先輩に教えてもらったおいしいケーキ屋さんだった。『浜志まんっていう、おいしいケーキ屋さんがあるんだよ』この口コミは、私が学生時代過ごした学生寮の中では、知らない人はいなかった。
しかし最近では、同じ横浜といっても、随分離れた所に住んでいるため、なかなか行く機会がない。
でも、年末に、偶然にも久しぶりにイセザキモールに行ったついでに、懐かしい浜志まんに寄って、クリスマス用のケーキを買うことにした。
変わらぬシンプルさがいい
イセザキモールは、関内駅からずーっと伸びたショッピングモール。いくつかのSTREETに区切られていて、繁華街に近い、1stや2st に人は観光客も集まるが、ちょっと離れた5stあたりになると、ぐっと人通りも減り、近所に住む住民が利用する商店街となる。「浜志まん」は、その5stにあるケーキ屋さんだ。
「浜志まん」でケーキを買うのは、随分、懐かしい。
学生時代は、実習が終われば打ち上げでケーキを買いに、テストが終わればケーキを買いに、いそいそとお友達と出かけたものだ。
久しぶりのケーキ屋さんだったが、外観もお店の中も、ほとんど変わっていない。
懐かしい甘い香りと店員さんの優しい笑顔。飾りっけのないショーケースに、シンプルなケーキがキレイに並ぶ。
パティシエの手触りが感じられる味
値段もほとんど変わっていないんだろう。ほとんどが、350円のショートケーキばかりだ。
学生時代は、「浜志まん」のケーキは贅沢な気がしたが、今考えると、すごく安かったな。最近のケーキは400円以上が当たり前だし、500円近いのが当たり前なのに「浜志まん」は値上げしていないんだ…..。
いつも買っていた一番人気のケーキを幾つか買いお会計をする。
すると、店員さんが満面の笑顔で、「寒い所わざわざありがとうございます」と、声をかけてくれた。まるで、私が遠いところから来たことを知っているかのようだ。
家に帰り、ワクワクしながら「浜志まん」のケーキを食べた。
一口食べるとフワッと広がる、やさしい生クリームとカスタードクリームの味。
柔らかいスポンジとビターなチョコレート。
懐かしいだけじゃない。
やわらかさを感じる。
パティシエの手先のぬくもりが伝わるような味だ。
味覚の記憶とは、意外と不確かだ。
昔は美味しいと思ったものでも、後で改めて食べてみると、そうでもなかったり、後で「こんなに美味しかったっけ?」と思ったりするものもある。
あの時、「美味しかった」という懐かしい記憶を手繰りながら、
その懐かしさやぬくもりに触れたくなる事もある。
正直、「浜志まん」のケーキの味は忘れてしまっていた。
ただただ、満足感の記憶だけで、今の味覚に、どれだけマッチしているか分からなかったのだが、期待を裏切らず美味しい味だった事に安堵する。
正真正銘、かわらぬ味とはこういう味なんだなと感動した。
あの頃の思い出まで連れてくる、柔らかな味。
そんなケーキが「浜志まん」のケーキだ。