八百屋さんにナンパされて買った桃


道を歩いていたら、キャリーを引いている女性が
私の前で、ピタッと止まってのぞき込むように

『すみません…..』

と声をかけてきた。

日に焼けた素肌が健康的で、真っ白なキャップとオレンジのTシャツ。
この暑い夏に、しっくり馴染むお姉さん。

突然声をかけられたので、道を聞かれるのだと思った。

しかし、お姉さんはさわやかな笑顔で、

『横浜駅のあたりから来た八百屋なんです。
特急品より、一つ下のランクなんですが
ものすごくおいしい桃があるのでいかがですか?」

と、私に売り込みを始めた。

全然、いやみがない自然なトーク。

「おいくらですか?」と聞くと、5つ入りの桃の箱を取り出し、

『通常は、スーパーなどでだと3,000円くらいですが1,700円です。
直送なので、味は変わらないくらい美味しいです。
ばら売りの場合は、1個350円です。』

現物を見ると、まあまあ美味しそうな桃だ。
でも、すぐ「即決」という程でもない。

でもお姉さん、こう付け加えた、

『もし、食べられておいしくなかったら
 すぐ、連絡してもらって大丈夫ですから。
 交換しますから。』

「えっ。品質保証付き?(O.O;)」

そこで、私は即決。

突然、声をかけられた見も知らないお姉さんから
桃を買ってみることにした。

桃を抱えながら、桃と一緒にお姉さんにもらったチラシを見てみた。
それは、それは、見事なチラシだった。

デザインなんて全くされてない。
手書きで、カラフルなペンを使い、
女子大学生のノートみたいだ。

それがとてもすばらしかった。

チラシの頭に、

“作り続けて110年。歴史ある農家さんへ
 スタッフみんなでくだもの作りのお手伝いに行ってきました!”

という大きな見出し。
その後、農家のお手伝いがレポートされている。

これは、110年も続く実績のある農家から
商品を仕入れている事が伝わり安心できる。

さらに、

“1級の産地のアウトレット品。
 見た目がぶさいくだけど味は一流!”

と、売っている果物のコンセプトが続く。
つまりは、ものはいいんだけど、規格外だから
おいしくて安いんだ…という事が一目で伝わった。

これは、完全に作戦がちのチラシだ。

まぁ、そもそも、

お姉さんの存在自体が成功している。

嫌みの無いトーク。
日に焼けた健康的な小麦色の肌に
白いキャップにオレンジのTシャツ。

こんな八百屋さんなら、ついつい買ってしまう気持ちも分かるだろう。

そして何よりも、

「おいしくなかったら連絡ください」という一言。

つまりは、
“自信を持っておいしい桃を売ってます。
だから、安心して食べてください。”

ということである。

そう、買う側は、こんな言葉に負けてしまうのだ。

きっと、おいしくなくてもお姉さんには電話はしないだろう。
数百円の桃に、わざわざクレームを言って交換してもらう労力が大変だ。

だからこそ、私は、この桃がどんな味かを知ってみたい。
食べ頃には、あと3日くらい常温で寝かしてください、と言ってたので
まだ桃は食べていない。

食べた時、
期待よりもおいしくなかったら、
完全にお姉さんの勝ちだな。
今は、それを知りたいって思っている。

桃を眺めながら、そんなことを考えてみた。