震災の記憶と語りべ(名取市閖上にて)2




※2013年10月13日に訪れた、宮城県名取市閖上地区に関するコラムです。震災の記憶と語りべ(名取市閖上にて)1の続きです。

 

『ここ閖上はね、
被災地の中でも一番早くガレキが片付いたのよ』

 

そういってお母さんは、私にインスタントコーヒーを入れてくれた。
広々とした更地の真ん中なので、もちろん電気は通っていない。七輪で沸かしたお湯で温かいコーヒーをいれてくださったのだ。テーブルの中央には、沢山のお菓子が並べてある。『これも食べて。これも食べて』とお菓子と一緒にコーヒーを出してくれる。

 

『なんで一番最初にガレキが片付いたのか分かる?
ほら、仙台空港があるでしょ。飛行機から閖上地区が丸見えになるでしょ。
旅客が見た時に、ガレキが山積みだったら困るじゃない。だからよ。』

 

そういって、ガレキがいち早く片付いた理由を教えてくれた。

『あっという間にガレキが片付いたじゃない。だから早く復興に向かうかと思って期待したけど、そこから何も進まなくなっちゃってね。』

 

ん?このセリフ、さっきも耳にした気がする。
ここに来る前によった、仮設商店街のカメラ屋さんの店主と同じ事を言っている。
カメラ屋さんの店主も同じような事を私に話してくれた。

 

店主は定期的に閖上に入り、写真を撮っていたそう。記録のために、沢山シャッターを切ってきた。でも、ある時を境に、街の姿が変わらなくなった事に気づいたそうだ。ガレキが片付いてから、その姿はほとんど変わらず、写真も全く同じ風景を映し出していた。

あっという間に片付いたガレキ。でも、そこから動かない街の姿。
住民にしてみたら、もうかれこれ、2年半もヤキモキしているということなのだろう。

 

ここ宮城県名取市閖上地区は、かつて漁業が盛んな街だったそうだ。
大きな船が、港に沢山出入りして、漁獲高も多かった。しかし、時代の流れとともに、漁港は衰退し、震災の頃は、仙台で働く人のベッドタウンになっていたそうだ。実は、仙台市内よりも雪も少なく、海が近く水田も多く、山や丘も無く平地で、とても住みやすかったに違いない。昔の閖上港の写真を見ながら、閖上の歴史を教えてもらった。

ここに住んでいた元住民の方々には、震災前の歴史があり、そしてその大昔にはさらに古い歴史がある。長い長い歴史の中で息づいてきた街の風景は、そこに住んでいた人々にしか分からない風景なのだ。

 

時折、激しい海風がごうごう音を立てて小さな小屋を震わせる。

野原の真ん中に取り残されたような強い風が、本当に切なくさせる。

 

『たしかにね。私もね。阪神大震災の後は、すぐ無関心になってしまったような気がするのよ。
それを、今は、本当に反省している。
みんな、震災を忘れちゃいけないのよね。
私達はね、いつも、避難所でロウソクを灯して過ごしたあの日を、絶対忘れちゃいけないのよ。絶対に。』



本当に、重い一言だと思った。

 

私達には想像もつかない数日間の体験と、目に焼き付いて離れないあの日見た光景、今も癒えない肉親を失った喪失感。 こういった色んな思いを抱えながらも、“あの日を忘れない”と言い切るお母さんの言葉は、私もしっかり覚えておこうと思った。

 

ここ閖上地区は、今後の街づくりが難航しているという。嵩上げ計画も進んでいるが、必ずしも住民の意見が反映されているとは言えないようだ。市と国の方針も違うそうだ。若い世代は、閖上に戻らず、すでに新しい土地で住居を構えている人も多いそうだ。やはり、街を再建するには、若い世代が住んでいかないと、なかなか難しいのだろうな、と感じる。

 

『でもねぇ。閖上の人は、ほんとに閖上が好きなのよね。』

 

会話の中で、笑いながらお母さんが言ったこの一言が、とても印象強く心に残った。
街が好きで、街に住む人が好きで、こうしてコミュニティを取り戻したいと思う反面で、やはり、津波の事を考えると住むのは難しいのでは?と折り合いをつけなければならない現実。本当に難しい問題が山積みなんだ。

 

びゅうびゅう吹き荒れる海風。
広々とした広野の中に、ここだけが人の体温を感じる一角だ。

太陽が傾きはじめ、西日が差し始めると、もうすぐ夜がやってくる。夜はどんなに寂しいだろうか?と考えながら閖上を後にした。

 

ここでお茶飲みをしているお母さん方は、みんな仮設住宅に暮らす方々だった。そこで、みんなでビーズ細工をしているそうだ。その商品を宣伝してほしいと頼まれたので、商品をひと通り購入してきた。私には何もできないけれど、小さくても何かお母さん方の力になれるよう、ビーズ細工の宣伝をしていきたいと思う。失った街の中に、まだ残る人と人とのつながりや絆の架け橋になり、私ができることをできる範囲でお手伝いしていきたいと思っている。



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