祇園の教訓 〜昇る人、昇りきらずに終わる人〜




(本ブログ記事は2013年1月31日に書いたものをリライトしています)

岩崎峰子さんは、京都祗園花柳界で100年に1人の芸妓、伝説の芸妓と呼ばれた有名な芸姑さんです。

祇園花柳界とは、舞や謡曲などの伝統芸を継承した舞妓や芸妓たちが、そこを訪れる客をもてなす場であり、厳しい訓練と教育をうけている芸妓の街です。誰もが知っている祇園ではありますが、なかなか敷居の高いエリアであることは間違いありません。

贅沢な大人の遊びとでもいいましょうか。私たちにとっては、なんとも憧れにも似た幻想的な印象をもつエリアかもしれません。

 

その中でも、岩崎峰子さんは昭和40年〜50年代頃に、一流の芸で数々のVIPをもてなした一流の芸妓さんです。現在は、(引退されていますが)引退後は、さっぱり花柳界から退き、正しい花柳界の認識を啓発するために執筆活動や講演を生業にしています。

 

私自身、恥ずかしながら、祇園の事などほとんど知りませんでした。しかし、ひょんな事から岩崎峰子さんの著書を知り、「祇園の教訓」という本を読んでみることにしました。

 

実は、この「祇園の教訓」という著書のプロローグに、『祇園花柳界は、廓や売春婦と花柳界を一緒にして受け取り、男性のお相手をする女性、みたいなイメージがついている。だから、正しい理解を啓発するために、執筆や講演をしている』と言った内容の記載がされていました。

『男性のお相手をする女性』という一文に、ちょっとだけドキッとしました。しかし、直後に『あぁ、なんとなく分かるかも』という感情がよぎりました。女性を武器に女性を売り物にした職業。もしかしたら、私達の心のどこかに誤解に似たものがあったかもしれません。とっさに、芸姑という職業を理解してみたい、と思ってしまいました。

 

岩崎峰子さんの著書、「祇園の教訓」には、花柳界、いわゆる祇園の芸妓とは、芸によりお客様をもてなし、よいお気分にすることが本質であり、守りたい美しい日本文化だという事が描かれていました。。

 

実際、これらを紹介した「Geisha, a Life」(平成14年出版)は世界25カ国で出版され、アメリカでは100万部を突破したベストセラーとなっています。海外の方の方が、日本文化への憧れや正しい理解をお持ちなのかもしれません。日本に生まれ、日本に住みながら。これらを良く知らないということは、とてももったいない事なのかもしれないと思いました。



さて、今回私が読んだ「祇園の教訓」。実は、この本は、ビジネスの原点とも言えるビジネス書のようや気がして手にとったものです。それは、目次にも表れています。下記に、目次の一部をご紹介いたします。(その他は、実際の著書を御覧ください)

 

・仕事が出来る人ほど、現場が好きです。
・トップに立つ人ほど質素な生活を心得ています。
・一流の男性ほど子供の教育に手を抜きません。
・三年前に出た話題も忘れません。
・15分で初対面の人の気持をほぐします。 

なんと、祇園花柳界の著書とは思えません。、まるでビジネス書の目次のようです。正直、この本を手にした後、この目次だけをみてすぐ読んでみよう!と思ったくらいなのです。つまりは、ビジネスとして、人と接して商売して行く時に、肝に命じておいたほうがよい事が沢山書いてある著書なのでした。

 

これらはすべて、岩崎さんが現役時代のエピソードであったり、引退後に現役時代に習得した考え方です。現場で経験した芸姑という職業の真髄なのかもしれません。また、本文に登場される登場人物も、本田宗一郎さん、湯川秀樹さん、有吉佐和子さんなど、その道の一流どころばかりです。実に、祇園花柳界とは、リアルなビジネスの現場から離れ、日本のトップリーダーたちが、ひっそり羽を休めた場所なのだということが垣間見れました。

つまりは、岩崎峰子さんは、そういった一流を求める方々に、一流のもてなしを与え続けた一流の芸妓ということです。思わず、どんな景色を見てきたのだろう…..?と自然と興味が湧いてしまいます。

 

そんな本書の中で、一番印象に残ったエピソードがあったので、少しだけご紹介します。岩崎峰子さんがきっぱり断ったお座敷のエピソードについてでした。



長くおもてなししてきた、ある社長さんが亡くなり、後継者をめぐって争いが起こった会社があったそうですが、生前の前社長さんの思いとは異なる新しい社長が決まってしまい、「まるで会社が乗っ取られたようだ」という話を聞いた事があったそうです。新しい経営者からは、残されたご遺族への配慮にも欠け、全く温かみを感じることができず、岩崎峰子さんは、この会社のお座敷には金輪際あがらないと決めたというエピソードがありました。さらに、今でも、この会社の製品は買ったりしていないと書いてありました。

 

「私一人がこんなことをしても影響はなく、
何の得にもならないことではあります。
でも、私なりに仁義を通したいと思っています。

仕事をする人間としてこんなことも
意外に大事なのでは無いでしょうか?」

と、章が結ばれていました。

仕事はもらってなんぼ。
仕事はこなしてなんぼ。
仕事とはそういうもの。

確かに、仕事というものは、それ以上でもなければそれ以下でもないかもしれません。しかし、それ以上に大切にしたい人の縁というものがあり、それは、商いをするものとしての筋道であり、誇りであるという事を感じるエピソードです。

 

きっぱりとお座敷を断った理由には、それまでご贔屓にしていただいた前社長さんへの深い愛情にも似た感謝の気持ちであり、それは、社長さんばかりでなく、そのご家族へも向けられた想いであり、その会社のアイデンティティそのものへ向けられた思いです。

1人のお客様を大切にし、その後も、絆のようなもので筋道を通すという、とても崇高なビジネスの精神のような気がして胸が震えました。

 

この著書を読んで、改めて仕事というものを考えさせられました。

お客様に感謝し、お客様と一緒に歩み、
お客様に学び、お客様と一緒に成長するもの。
改めて、岩崎さんの生きた祇園花柳界から、学ばせていただく経験でした。

岩崎峰子さんはじめ、芸姑のみなさんは、日本におけるキャリアウーマンの原型とも言われます。女性が自分の力で生きていく職業婦人のさきがけとも言える職業です。女性の能力や持ち味、良さを十二分に活かし、経済界のトップリーダーを芸でもてなすという、素晴らしい職業に尊敬の念と憧れをいだく存在であることは確かです。

女性と男性という存在は、全く異なる存在です。
しかし、それぞれがそれぞれの持ち味や得意分野で支え合い、よりよい社会を、そしてよりよい人生を創りあう存在です。女性の持ち味が発揮でき、誇り高く生きられる社会であって欲しいし、正当に認められる社会であって欲しいと心から願います。

そういう意味でも、本著が、何かのキッカケになるかもしれないと感じました。